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ネッテイングを行うことにより,一般的に,@取引事務の効率化(事務量低下で情報伝達コストが下がり,事務ミス発生の可能性も減る),A決済リスクの削減(決済金額の縮小で決済に伴うリスクが減る(第5章参照)),B手持ち資金の削減(決済資金が少額で済むため手持ち資金(日中流動性)が少なくて済み,その分余った資金を運用して利益獲得に回すことができる),C自己資本比率(=自己資本÷リスク・ウエイトによる加重総資産)規制上のメリット(ネッティングで資産が縮小する分,必要な自己資本額は少なくて済む)という効果が見込めるといわれている。
ネッテイングにはさまざまな種類があり,まず当事者の数によって,@バイラテラル・ネッテイング(2当事者が行う場合)とAマルチラテラル・ネッテイング(3当事者以上の多数当事者が行う場合)に分類される。
前者が個々の金融機関を中心に幅広く行われているのに比べると,後者はまだ決済システムや一部の取引に限られている。
そこで以下,バイラテラル・ネッテイングを念頭に説明し,その後,マルチラテラル・ネッテイング特有の問題に触れよう。
法的性格の相違から,ネッテイングは,@ペイメント・ネッテイング,Aオブリゲーション・ネッティング,B一括清算の3つに区分されている。
まず,ペイメント・ネッテイングは,履行期の同じ複数の債権・債務がある場合,履行期(決済時点)において互いの債権額・債務額を差し引きし,差額のみを履行する契約を指し,履行期の到来まで個々の債権・債務は変更されずに残存する。
これは債務の履行方法の合意と解され,法的に有効であるが,履行期以前に当事者が倒産するとその部分の差額決済ができないため,他の2つに比べるとメリットが少ない。
次に,オブリゲーション・ネッテイングとは,AとBとの間に履行期の同じ複数の債権・債務が発生する場合に,新たな債権が発生する都度,履行期の到来を待たずに債権・債務自体を差引し,履行期に履行すべき債権を1本にする契約を指し,講学上の「段階交互計算」とされ有効と考えられている。
段階交互計算とは,個々の債権が発生する都度,それが継続的に決済されて,それ自身の発生原因から独立した原因を持つ1つの残額債権になるというもので,商法529条の交互計算(交互計算の場合,段階交互計算とは異なり,取引の発生時点ではなく一定期間ごとに行う「確認書」の交付時点で初めて債権・債務を相殺し1本の債権になる)の類推によって講学上認められた概念である。
また,一括清算とは,当事者の一方(たとえばA)が倒産した場合等において,通貨や受渡日の異なる全債権債務を一括して決済し,履行期の到来した1本の残額債権に置き換える契約を指し,相手方(たとえばB)の被る損失額を大きく減らすことができる。
一括清算については,倒産法との関係で法的有効性が必ずしも明確とはいえなかった。
特に,双方未履行の双務契約についての管財人による解除・履行選択権(破59条,会更61条)との関係で,一括清算が有効だとすれば,破産管財人や更正管財人が一括清算される前の取引の一部を解除し,一部については履行を求める選択的解除(チェリー・ピッキング)を行えなくなる点が問題となった。
これを有効と解する解釈論は有力に主張されてはいたが,確実に有効とはいえない状況にあった。
同様の問題は当初,他の多くの国々にも存在していた。
国際的に行われるネッテイングの場合,仮に当事者の住む国々の法や契約準拠法上一括清算が有効であったとしても,倒産した当事者の債権者や管財人が当事者以外の第三国に居住するような場合,第三国の裁判所で倒産開始手続が開始され,「手続は法廷地法による」という国際私法上の原則に従い,手続法的色彩の強い管財人の権利は第三国の法によって定まる可能性が高い(その結果,第三国の法が一括清算の有効性を認めなければ一括清算のメリットは享受できない)。
このため,世界の主要国すべてでネッテイング契約の有効性を明らかにする必要性が説かれ,アメリカ,ベルギー,フランス,ドイツ,イタリア等では一括清算を倒産法上有効とする立法を相次いで行って解決(法的有効性を明確化)した。
日本は当初,法解釈だけで有効性を確立させようとしていたが,取引の安定性を高めてデリバティブ取引を活性化するため,1998年6月に「金融機関等が行う特定金融取引の一括清算に関する法律」(一括清算法)を成立させ,法的有効性を明確化した。
一括清算法では,金融機関等(銀行,証券その他)を当事者の一方とするデリバテイブ取引において当事者間合意に基づいて行う一括清算ネッテイング(国際スワップ・デリバテイブズ協会(ISDA)のスワップ取引に関するマスター契約などの公正な一括清算に限定)において,破産法59条および会社更生法61条にいう双方未履行契約について管財人の履行・解除選択権が適用されないことを明確化している(一括清算法3条)。
さて,次にマルチラテラル・ネッテイングの説明に入ろう。
マルチラテラル・ネッテイングには2種類存在し,@中央に清算機関(セントラル・カウンターパーティー)を置き,参加者間のすべての債権・債務を清算機関との関係に置き換えてバイラテラル・ネッティングを行う場合とA清算機関を置かずに行う場合がある。
清算機関を伴うネッテイングについては,実質的に参加者と清算機関との間のバイラテラル・ネッテイングと解されるため,清算機関との債権債務の置換えを取引開始時に予め合意していれば,バイラテラル・ネッティングに加えて新たな法律問題は生じない。
このため,日本の決済システムである全銀システム,外為円決済制度等では,近年相次いで清算機関を伴わないマルチラテラル・ネッティングを改め,清算機関を伴うマルチラテラル・ネッティングを採用した。
一方,清算機関を置かずに行うマルチラテラル・ネッテイングの場合,支払や受取りの相手方を問わずに総支払額と総受取額を差し引くことで個々の参加者の受払額が決まる。
たとえば,Aの当初の債権債務はBに40支払う債務,Cから20受け取る債権を有していたが,マルチラテラル・ネッテイングによりAが支払うこととなる20(=40-20)の債務は,たとえばBのCに対する債権をAに譲渡するなど債権・債務の置換えをしない限り,誰に対するものかカヌ明確ではない。
これは当事者の数が増えれば増えるほどより顕著になる。
このネッテイングはバイラテラル・ネッティングにおける一括清算とは異なり,法的には債権・債務を置き換えるプロセスが加わってくる。
したがって,倒産時にこれを行うと,倒産した相手方に対する他の債権者よりも優先して支払を受けることになるので,相殺権など倒産法が優先権を認めた部分を除けば「債権者平等」を原則とする倒産法の理念と相容れず,無効と解される恐れがある。
しかし,依然多くの決済システムでは清算機関を伴わないマルチラテラル・ネッティングを採用しており,取引安全のためにはこれらのシステムの法的有効性を明確にしておく必要がある。
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